春節祭作文コンテスト2017(日本語の部) 最優秀賞

春節祭と私~新春と青春を味わう~
作者:山本 勝巳

地下鉄矢場町駅を下車して地上へ上がり、エンゼル広場へ向かう横断歩道に差し掛かると、独特な香りが漂ってくる。初めて嗅ぐ人からすると、異国情緒漂う香りであり、中国へ留学していた私からすると、懐かしい香りだ。10年前、北京に留学していた記憶が思い起こされる。
 冒頭でも紹介した「香り」の正体は中華料理であり、春節祭と言えば、中華料理の宝庫だ。小籠包から刀削麺、東北料理から四川料理まで中国各地の料理が一堂に会し、中国に行かなくても、手軽に食べ歩けるのが最大の魅力である。
毎回、最初に注文するのは羊肉串だ。さっぱりした脂身で柔らかい肉質の羊肉を串焼きにし、香辛料がまぶされており、少し臭みはあるもののこれが旨味の正体であり、病みつきになる。今年も小雨が降る中、夢中になってかぶりついた。
留学時代はよく屋台で世界各地の留学生、中国人の友達と青島ビールを片手に羊肉串を食べながら、覚えたばかりの中国語を駆使して、コミュニケーションを取った。中国語を通じて、自分の知らない世界を知る事が出来た、当時の楽しい記憶が鮮やかに蘇り、お腹も心も満たされていく。
 もう1品は牛肉面を選んだ。熱々で濃厚な牛肉スープの中に、もちもちのちぢれ麺が入っており、寒い日に食べると心も体も温まる。香菜は苦手なので、少なくしてもらい、一気に麺をすすりあげ、スープを飲み干した。
湯気で曇った眼鏡を服の袖で拭いながら、赤色のパッケージが印象的な牛肉面味のカップラーメンを万里の長城で食べた事を思いだした。まさか万里の長城で食した麺を名古屋のテレビ塔を見上げながら食べる日が来るとは、想像もしていなかった未来が現実となり、グローバル化の波と中国がより一層身近に感じられた瞬間だ。 
 しかしながら「中国」と聞いて、いいイメージを持っている人は多くないかもしれない。よく思い返して欲しい。誰もが子供の頃に1度は見たであろうカンフー映画や中国雑技、日本や愛知にもゆかり深い北京オリンピックや上海万博での思い出、中華料理を人生で1度も食べた事がないという日本人を私は知りません。身近にありすぎて、気が付かなかっただけだと思う。
意識してみると多くの人の青春時代の思い出の1ページに、中国に関する思い出が眠っている。周りに流されず、一歩踏み出して、思い出を掘り起こすと懐かしい「青春」の記憶と活気ある「新春」の様子を日本の真ん中、名古屋の真ん中で、おいしい中華料理と共に味わうのも一興ではないか。
こんな事を考えながら、小雨が降る会場を後にした。肉まんを口いっぱいに頬張ったまま。
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